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輸入VAT(Import VAT)を現金で払わないための各国制度ガイド——DSV利用企業と日本のACP実務

作成者: OPTI|Sep 15, 2026, 10:46:27 AM

荷受人に受け取りを拒否された貨物を、正式な通関手続きを閉じないまま持ち帰り、別の便で改めて発送した——それだけの事務処理のつまずきが、運送会社に多額の輸入VATを負担させ、しかもそのVATを一切控除できないという結果を招いた判例があります。欧州司法裁判所(CJEU)のC-187/14事件です。

この記事では、この判例の内容と、そこから読み取れる「通関手続きの不備がなぜ輸入VATの回収不能リスクに直結するのか」という教訓を解説します。あわせて、輸入VATの現金負担を避けるための各国の猶予制度にも触れます。

Key Takeaways

  • CJEUはC-187/14事件で、通関手続き上の不備が「税関監督からの離脱」(EU関税法第203条)に該当し、それだけで輸入VATを含む関税債務が発生すると判断した
  • 通関申告の主たる責任者(運送会社)は、貨物の所有者や輸入者でなくても、この関税債務(輸入VATを含む)を負う
  • さらに、この運送会社は支払った輸入VATを仕入VATとして控除できないと判断された。運送サービスの対価にその貨物の価値が組み込まれていない限り、輸入VATは運送会社にとって回収不能な純粋コストになる
  • 通域(外部通過手続き)を正式に閉鎖しないまま貨物を動かす、という一見軽微な事務ミスが、想定外の税負担を生む典型例である
  • この種のリスクを避けるには、通関手続きを正確に履行することに加え、各国が用意する輸入VAT猶予制度(postponed/deferred VAT accounting)を正しい資格要件のもとで利用することが重要である

事案の概要:閉じられなかった通域手続き

ある運送会社が、デンマークを出発地、スウェーデンを仕向地とする外部通過手続き(external transit procedure)を開始しました。ところが仕向地のスウェーデンで、荷受人が貨物の受け取りを拒否します。運送会社は、この元の通域書類を正式に閉鎖する(貨物を仕向地の税関に提示して手続きを終了させる)ことをせずに、貨物をデンマークへ持ち帰りました。その後、この貨物は別の貨物とまとめて、新たな外部通過手続きのもとで改めて発送されています。

デンマークの税務当局は、当初の通域手続きが正式に閉鎖されなかったことにより、EU関税法上の「税関監督からの離脱」に該当し、関税債務(輸入VATを含む)が発生したと判断しました。そして、貨物の所有者でも輸入者でもなく、運送を行っただけのこの運送会社に対して、その債務の履行を求めたのです。

争点1:「税関監督からの離脱」(第203条)か、「義務の不履行」(第204条)か

EU関税法上、通関手続きの不備によって関税債務が生じる根拠には主に2つの条文があります。第203条(税関監督からの離脱)は救済規定がなく直ちに債務が発生するのに対し、第204条(その他の義務の不履行)には、違反が「通関手続きの正しい運用に実質的な影響を与えなかった」場合に債務の発生を免れる救済規定(実施規則第859条)が用意されています。

CJEUは、貨物が仕向地の税関に提示されないまま新たな通域に組み込まれたことで、税関当局がもはや当初の貨物の動きを追跡・照合できなくなった以上、これは第203条の「税関監督からの離脱」に該当し、第204条の救済(軽微な手続き違反への例外)は適用されないと判断しました。

争点2:関税債務を負った運送会社は、支払った輸入VATを控除できるか

関税債務には輸入VATも含まれます。ここでの最大の論点は、貨物の所有者でも輸入者でもなく、運送とその通関事務を担っただけのこの運送会社が、支払を求められた輸入VATを自社の仕入VATとして控除できるか、という点でした。

CJEUは、VAT指令(2006/112/EC)第168条(e)を根拠に、輸入VATの控除が認められるのは、その貨物の価値が当該事業者の課税対象取引(この場合は運送サービス)の対価に組み込まれている場合に限られると判示しました。単に運送・通関事務を代行しただけで、貨物自体の価値を自社の請求額に反映していないのであれば、控除は認められません。結果として、この運送会社にとって支払った輸入VATは、控除できない純粋なコストとして確定しました。

この判例が意味すること:通関の「事務ミス」が輸入VATの回収不能リスクに直結する

この事件が示す教訓は明確です。通関手続き上の些細な事務処理の乱れ——荷物を正式に仕向地に提示せず、書類を閉じないまま次の輸送に回してしまう——が、想定していなかった関税債務・輸入VATの負担を生み、しかもそれが控除できない確定コストになり得るということです。

特に、複数の荷主の貨物を取りまとめて通関手続きを代行する立場(通域の主たる責任者・利用運送事業者)にある場合、自社が貨物の所有者でも輸入者でもないという理由だけでは、このリスクから逃れられません。通関書類の正確な処理と、通域手続きの適時な閉鎖を徹底する運用体制が欠かせません。

対策:各国の輸入VAT猶予制度を正しく使う

この判例のような事務手続き上のリスクとは別に、輸入VATにはもう一つの実務課題があります。多くの国では輸入時にVATの現金納付が求められ、その後の申告・還付まで資金が拘束されるという、キャッシュフロー上の負担です。この負担をゼロにする猶予制度(postponed/deferred VAT accounting)は、EU主要国とイギリスのほぼ全域に存在します。

オランダ:Article 23 license

輸入時にVATを現金納付せず、定期VAT申告書上で申告と控除を同時に行うリバースチャージ方式です。非居住企業は自分では申請できず、Fiscal Representative(財政代理人)の選任が必須です。

ベルギー:ET 14.000 license

ベルギーVAT申告書上で輸入VATを自己課税・同時控除します。2026年1月15日以降、申請手続きはMyMinfin経由のみに変更されています。

フランス:自動リバースチャージ(2022年〜)

2022年1月1日以降、フランスの域内VAT番号を持つ企業は、事前申請なしに輸入VATが自動的にリバースチャージされます。

ドイツ:§21a UStGの猶予納付口座

他国と異なり「同一申告での即時相殺」ではなく、輸入VATの納付期限を輸入月の翌々月26日まで繰延できる制度です。担保やAEOステータスが求められることが多く、キャッシュフロー改善効果は他国より限定的です。

イギリス:Postponed VAT Accounting(PVA)

英国VAT登録事業者は輸入VATを通関時に払わず、同じVAT申告書内で納付と控除を同時に計上できます。財政代理人は不要で、2025年6月には恒久的な標準オプションに格上げされました。

アイルランド・ポーランド・スペイン・イタリア・北欧諸国

アイルランドはPostponed Accounting(VAT+EORI登録が前提、歳入庁の審査あり)、ポーランドは2020年7月の要件緩和によりVAT法第33a条の自己課税方式が原則すべてのVAT登録事業者に開放されました。スペインは月次申告事業者を対象にしたIVA diferido、イタリアは他国と仕組みが異なる「常時輸出者」のplafond(非課税購入枠)制度があります。デンマーク・スウェーデンにもリバースチャージ型の制度がありますが、デンマークには支払時期そのものを後ろ倒しする猶予はないとされています。

国別比較表

制度名 即時ゼロ相殺か 非居住者の代理人要否
オランダ Article 23 license 必須
ベルギー ET 14.000 license 実務上は代理人経由が一般的
フランス 自動リバースチャージ(2022年〜) ◯(原則自動) VAT登録前提
ドイツ §21a UStG 猶予納付口座 △(納付の後ろ倒しのみ) VAT登録・担保等が前提
イギリス Postponed VAT Accounting 不要(VAT登録のみ)
アイルランド Postponed Accounting VAT+EORI登録、歳入庁審査あり
ポーランド VAT法第33a条 VAT登録前提
スペイン IVA diferido ◯(月次申告者) VAT登録+事前届出
イタリア 常時輸出者plafond制度 制度が異なる VAT登録前提
デンマーク Postponed import VAT accounting ◯(支払猶予自体は無し) 要事前申請

日本企業がよく陥る失敗パターン

1. DDPで販売し、自社が輸入者になってしまう

DDP(仕向地持込渡し)は、輸送・関税・輸入VATの手配責任をすべて売主が負う条件です。売主である日本企業が現地でVAT登録をしていなければ、立て替えた輸入VATを控除・回収できず、そのまま損失として確定してしまいます。

2. 猶予制度の存在を知らず、現金で払い続けている

特にオランダのArticle 23やベルギーのET14.000は、財政代理人の手配という手間から敬遠されがちですが、輸入頻度が高い企業ほど、制度を使わないことによる資金拘束のコストは無視できません。

3. 通関代理人・フォワーダー任せにして、通関書類の処理状況を確認していない

本記事の判例が示すとおり、通関手続きを代行する事業者側の事務ミスであっても、荷主が想定外の輸入VATコストを負担する結果につながることがあります。委託先任せにせず、通域・通関手続きが正しく完了しているかを定期的に確認する体制が重要です。

まとめ

輸入VATのリスクは、猶予制度を知らないことによるキャッシュフロー負担だけではありません。通関手続きの事務処理を誤ると、貨物の所有者でなくても関税債務(輸入VATを含む)を負い、しかもそのVATを控除できないという、より深刻な事態を招くことがあります。通関書類の正確な処理を徹底したうえで、各国の輸入VAT猶予制度を正しい資格要件のもとで活用することが、輸入VATの実効コストを下げる最も確実な方法です。

FAQs

この判例(C-187/14)はどのような事件ですか?

ある運送会社が、デンマークからスウェーデンへの外部通過手続きを開始したものの、荷受人に受取を拒否され、通域書類を正式に閉鎖しないまま貨物を持ち帰り、別便で再発送した事件です。CJEUは、これが「税関監督からの離脱」に該当し、関税債務(輸入VATを含む)が発生すると判断しました。

なぜ運送会社は輸入VATを控除できなかったのですか?

VAT指令上、輸入VATの控除が認められるのは、輸入した貨物の価値が自社の課税取引の対価に組み込まれている場合に限られます。運送会社は貨物の所有者でも輸入者でもなく、運送料に貨物の価値を反映していなかったため、控除が認められませんでした。

猶予制度(postponed VAT accounting)を使えば、このリスクを防げますか?

いいえ。猶予制度は輸入VATの現金負担(キャッシュフロー)を軽減する仕組みであり、通関手続きの事務ミスによって関税債務そのものが発生するリスクを防ぐものではありません。通域・通関手続きを正しく完了させる運用体制が、このリスクへの直接的な対策になります。